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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)755号 判決

控訴人

佐々木マツノ

控訴人

有限会社福島美容院

右代表者

柳沢弥平

右両名訴訟代理人

永田恒治

被控訴人

竹内まつ子

右訴訟代理人

熊沢賢博

主文

控訴人らの控訴及び当審における予備的請求をいずれも棄却する。

当審における訴訟費用は、控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一不法行為を理由とする主位的請求について

1  請求原因1(一)ないし(三)(本件に至る経緯)の事実は、当事者間に争いがない。

2  同2(不法行為)の事実は、本件強制執行の対象となつた物件の範囲を除いて、当事者間に争いなく、この事実によれば、被控訴人は、債務名義たる調停調書に記載された本件引渡請求権が不発生であるのに、少なくとも過失によりそうではないと考えて、執行文付与の申請をし、その付与を得て本件強制執行を申し立て、その実施に至つたものである。従つて、被控訴人は、控訴人らに対し、同人らが右強制執行によつて被つた損害を民法七〇九条により賠償すべき義務がある。

3  しかし、控訴人らの右損害賠償債権は、本訴提起(その日は、記録によれば、昭和五〇年九月一二日である。)前に時効によつて消滅したものであるから、本訴の主位的請求は、この点で既に失当である。その理由は、次のとおりである。

(一)  原判決理由説示三(原判決一〇丁裏三行目から同一二丁裏二行目まで)を次のとおり訂正して引用する。

(1) 原判決一〇丁裏六行目「同第三号証」の次に「、同第一三号証」を加え、

(2) 同裏一二行目「本件」から同一一丁表一行目「におり」までを「昭和四六年三月二日本件強制執行が実施され、その現場にも居合わせたものである。また、控訴人佐々木は、事前に右強制執行の気配を感じたので」と改め、

(3) 同裏三行目につき、「委任を受け」の次に「、昭和四六年三月一日松本簡易裁判所に対し」を、「請求異議の訴」の次に「(同裁判所同年(ハ)第二五号)」をそれぞれ加え、

(4) 同表五行目「追行した。」とあるを「追行し、昭和四九年三月五日控訴人佐々木勝訴の判決を得、同判決は同月二一日確定した。」と改め、

(5) 同表六行目「原告」以下七行目「その」までを「控訴会社は、控訴人佐々木の所有にかかる第三目録記載の物件を使用して福島美容院を経営(もと控訴人佐々木の個人経営であつたものを引き継ぎ経営)していたもので、右物件は右営業に欠かせない備品であつた。そして、右」と改め、

(6) 同表末行「執行現場に臨んだ。」とあるを「、本件強制執行着手後にその執行現場に臨んだが、右第三目録記載物件(以下「執行対象物件」という。)の搬出を阻止することができなかつた。」と改め、

(7) 同裏三行目から一二行目までを「右認定の事実によれば、控訴人らは、いずれもが本件強制執行当時その違法であることを認識していたものと推認することができる。また、右認定の事実、とくに執行対象物件が控訴会社の営業に不可欠の備品であつたこと、それなのに右物件が強制執行によつて搬出されてしまい、これに対する請求異議訴訟も二度目の抗争であつて、その解決にはかなりの時日を要するものと予測できたことを考慮するならば、控訴人らは、本件強制執行当時において、それぞれ右執行によつて自己がその主張の損害を被ることを予見しえたものというべきである。すなわち、控訴人佐々木は、執行対象物件につき絶えざる更新を要する流行の備品であるから、時の経過に伴つて急速に商品価値が下落し損害を被る旨主張するが、右主張のとおりとするならば、美容院経営に明るく、その間の事情を知悉している筈の同控訴人としては、本件強制執行による右物件の搬出によつて右商品価値の下落・すなわち所有権の侵害という損害の発生することを認識した筈であり、また、右物件の返還を受けるまでに前叙のとおりかなりの時日を要するとするならば、それまでに右物件が商品価値としては無価値になりうること、すなわち当初の商品価値の下落と索連一体をなす価値喪失という究極の損害の発生をも予見しえたものと考えられる。また、控訴会社としても、営業経営に不可欠の備品が強制執行という不名誉な方法によつて持ち去られるならば、客商売たる美容院経営が打撃を受け、営業侵害という損害の発生することを認識した筈であり、また、それと牽連一体をなす損害として控訴会社主張の代替備品の購入費支出や営業上の逸失利益という損害の発生をも予見しえたものと考えられる。そして、右のように不法行為時に予見可能な損害は、その現実の発生が不法行為後であるとしても、不法行為時に「損害ヲ知リタル」ものとして民法七二四条所定の時効が進行を始めるものと解すべきである。」と改め、

(8) 同一二丁表五行目「債務者が」の次に「適法に」を加える。

(二)  控訴人らの時効中断の再抗弁につき考えるに、被控訴人が控訴人佐々木に対し、昭和四八年一二月二四日付で控訴人ら主張の内容証明郵便(乙第二号証)を出したことは、当事者間に争いがない。しかし、〈証拠〉によれば、右内容証明郵便の内容は、控訴人佐々木と被控訴人間において、かねて前記買戻の効力につき抗争中であつたところ、被控訴人において右買戻の有効であることを認め、供託にかかる買戻代金四〇〇万円の払渡を受けたので、買戻に伴う所有権移転の効果として、右控訴人に対し、被控訴人が保管する買戻物件の引取を求めた趣旨のものと認められるから、右買戻物件につき被控訴人の保管に帰したのが、本件強制執行によるものとの経緯を考慮しても、右のごとく買戻の効果として物件の返還を申し出ることが、控訴人ら主張の損害賠償債務を被控訴人において承認したことになるものではないというべきである。控訴人らの再抗弁は、採用できない。〈以下、省略〉

(沖野威 枇杷田泰助 佐藤邦夫)

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